日赤発祥の地・熊本 〜連載企画〜

連載49 - あとがき -

著者がこの連載を書き始めたきっかけは、西南戦争の研究家で作家でもある勇知之(いさみ ともゆき)先生のご協力で、一緒に博愛社設立の調査をしている最中であった。社内報である「日赤くまもとNEWS」がリニューアルし、その特別企画で連載記事として、「日赤発祥の地」について書かないかと、当時の日赤熊本新聞編集委員会から勧められ、筆不肖の私が書くことになった。著者は社内報の責任者でもあり、日赤の起こりと熊本のかかわりは職員にも是非知ってもらいたいという思いで書くことにしたが、歴史家でも作家でもない著者にとっては、成り行きというか、想定外というか、非常に突発的なものであり、シナリオのない運命的なものであった。

もともと職員向けの連載記事ということで、申し訳ないが無計画にスタートした。勇知之先生の話しやウィキペディアフリー百科事典、これまで日赤で培った知識や身近な地元の資料を参考に、最初はけっこう気軽に書くことが出来た。ただ自分としては、30数年前日赤に入社した当時、先輩から教えられた「日赤発祥の地」を、何となく実証してみたかった。最初は昼休みに執筆していたが、気が付けば自宅に持ち帰るようになっていた。調べているうちに、田原坂周辺には沢山の言い伝えがありビックリした。だんだんと熱が入ってきた。連載途中であったが上司のすすめで、不完全であったが書籍にも掲載され、ネットでは一般の方々にも公開されるようになった。連載記事がだんだんと仕事中にもできるようになり、予算をいただき展示用の歴史パネルも作成した。そして、博愛社の誕生を探る唯一の連載記事が誕生した。これで所期の目的は達成されたように思う。今となっては有難くもあり責任も感じている。赤十字への思いも書くことができた。このような機会を与えてくれた職場にも感謝である。

連載途中で、人吉の温泉宿で戦傷病者の治療を行っていた博愛社の救護員が、薩摩兵士に切られ壮絶な死を遂げていたことが伝わってきた。当初博愛社が活動した熊本軍団病院や、人吉、八代、阿彌陀寺、水俣方面での救護については、激しい戦闘が行われたにもかかわらず、資料不足のためご紹介できなかったのが非常に残念である。また、岩倉具視が西南戦争で使った暗号表など、重要文化財級を含む数万点の史料が明らかにされ、西南戦争の秘密通信文61通が発見された。その中で、佐野常民が岩倉具視に送った明治10年4月25日付の書状には、詳細は分からないが、「4月15日に京都で三条実美に会って岩倉具視の書状を渡し、博愛社設立について委細を申し上げる機会が与えられた。4月25日に神戸を出発した。」という内容のものであったらしい。これは大変なスクープであった。これまで不明だった佐野常民の足取りのひとつが確認された。岩倉具視が佐野常民にいきな計らいをし、4月7日から50日間の休暇願を、出張命令に変更したことと結びついてくる。本連載では、明治10年の3月と4月に、佐野常民が高瀬(玉名市)や玉東町を訪れたという言伝えを紹介しているが、そのうちの4月の可能性は限りなく薄くなったということになる。佐野常民は博愛社設立のため4月12日に東京(神戸という説もあった)を出発し九州に向う途中、京都で博愛社設立運動を行ったことは知られていたが、一日でも早く博愛社の設立を願っていた佐野が、4月25日まで京都や神戸に滞在していたことは予想もしていなかったことである。ただし、佐野常民に仕えていた戸田秋成書記官や代理人、使用人は佐野常民の名刺を預かり、先回りして熊本に来ていたかもしれない。歴史とは非常に面白いものである。この秘密通信文の発見で新たな疑問や想像が頭の中をよぎる。この発見によって、この連載記事の一部を修正する必要があるかもしれないが、お許しをいただきながら、今後の専門家の調査等に委ねていきたい。兎に角にも、この発見は歴史家でない著者にとってもビッグニュースであった。

赤十字の理念は、赤十字の基本7原則である人道、公平、中立、独立、奉仕、単一、世界性を胸に刻みながら、ひたすらに人道的被害者や被災者を救うことにある。そして、そのための事業や活動は、そのすべてが皆さんの崇高な奉仕や貴重な寄付金によって支えられている。昨今では、世界中で人道的な被害者や災害による被災者が増え、赤十字活動への期待が高まっている。実際、被災者のための救護活動や各種義援金の募集は増加傾向にある。しかし残念ながら、赤十字の事業資金、活動資金への寄付は減少傾向にあり、各種の救護訓練や、救護服、無線機器の整備等にも資金不足が生じている。赤十字思想の普及やいざという時の備え等が思うようにできなくなるのではないかと気がかりである。これまで赤十字にご協力をいただいた方々に感謝申し上げるとともに、これまで以上に私たち赤十字も頑張り、官民あげての赤十字運動の推進と、人道に対する寄付をお願いしていきたい。そしてこの連載が、少しでも人の命を大切し、その心の根幹として誰でもが持っている、「思いやりの心」や「助け合いの精神」を培い、赤十字の理想とする「人道」の力となれば幸である。また、皆様と共に赤十字の組織や事業が、永遠に人間の生命や健康を守るとともに、いざというときには、人の命を守り、苦痛の軽減を目指して、機動的な救護活動が行えるよう願っている。

さて、この連載を始めてまる4年となりますが、その間、多くの方々にご愛読いただきまして、誠にありがとうございました。また、昨年2013年(平成25年)3月、田原坂及びその周辺に残る西南戦争遺跡が国指定史跡となりましたことは、大変記念すべき嬉しい出来事となりました。明治以降の国指定では、広島の原爆ドームに続いて2番目となるそうです。関係各位のご努力に敬意を表します。また、記念式典では、日赤の誕生もしっかりと織り込まれ、シンポジウムにも参加させていただき、感謝申し上げます。今後も、戦跡をはじめ各地の日赤発祥の地やゆかりの地とも連係して、命の尊さを訴えながら平和を願っていきたいと思います。それから、著者の知らない伝承や資料がありましたら、これからの資料作成等に活用させていただきたいと思いますので、是非ご一報くださいますよう、宜しくお願い申し上げます。そして、何時の日か、皆様と共に赤十字旗を掲げて「人道」を語らいながら、熊本城や田原坂を始め、それぞれの地域に点在する日赤発祥の地や、ソルフェリーノをはじめとする世界赤十字ゆかりの地を旅することができれば幸いです。

最後に、連載記事の作成に当たり、作家の勇知之先生のほか、日本赤十字社熊本県支部史の執筆編集主幹である故中川要輔先生、日本赤十字社情報プラザの泉沢守行氏、そのほか、田原坂資料館、熊本洋学校教師館ジェーンズ邸、佐野常民記念館、光蓮寺、正念寺、徳成寺、拝聖院、植木町、玉東町、玉名市、熊本市、熊本県、西南の役田原坂顕彰会及び日本の赤十字活動発祥の地を顕彰する会の皆さま、その他資料の収集やご助言をいただいた方々、参考文献や画像提供関係者の皆様、インターネット上に貴重な記事を掲載されている方々、その他多くの関係の方々に心から御礼申し上げます。本当にありがとうございました。(^0^)

2014年(平成26年)5月1日
日本赤十字社熊本県支部 梶山哲男

 

「日赤発祥の地・熊本」<連載01~49> (平成22年5月~平成26年5月)

著者(連載記事・写真・編集)
梶山哲男(日本赤十字社熊本県支部)

発行
〒861-8039熊本県熊本市東区長嶺南2丁目1-1
日本赤十字社熊本県支部 総合企画広報室
TEL:096-384-2100(代表)

参考文献
「真説 西南戦争」勇知之著
「データで見る西南戦争」(官軍戦死者を中心として)勇知之著
「日赤の創始者 佐野常民」吉川龍子著
「軍団病院日記抄」県立図書館所蔵
「従征日記」川口武定著
「読売新聞」日本赤十字社創立の由来(明治35年10月)
「鹿児島征討始末記」鹿児島県資料
「ウィリアム・ウィリス」納光弘のホームページ
「細川藩医師団の赤十字活動について―県医師会長―」拝聖院史記
「凌風丸」佐野常民記念館のホームページ
「高瀬大会戦―史跡案内板―」玉名市
「佐野常民」ウィキペディアフリー百科事典
「長崎海軍伝習所」ウィキペディアフリー百科事典
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「有栖川宮熾仁親王」ウィキペディアフリー百科事典
「小松宮彰仁親王」ウィキペディアフリー百科事典
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「関 寛斎」ウィキペディアフリー百科事典
「鳩野宗巴」ウィキペディアフリー百科事典
「安政の大獄」ウィキペディアフリー百科事典
「岩倉使節団」ウィキペディアフリー百科事典
「日本赤十字社社史稿」
「日本赤十字社百年史(赤十字幻灯)」
「日赤同窓の会だより」(岩倉具視と赤十字)泉沢守行著
「赤十字巡礼」 岸井敏著。太田成美監修・(株)日赤会館発行
「ソルフェリーノの思い出」アンリー・デュナン著。木内利三郎訳・(株)日赤会館発行
「日本赤十字社熊本県支部史」日赤熊本県支部発行

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