日赤発祥の地・熊本 〜連載企画〜

連載43 「西南戦争と博愛社創設秘話―日本赤十字社発祥物語―」の発刊

日本赤十字社名誉副総裁秋篠宮妃殿下が、1999年(平成11年)3月9日に、日赤ゆかりの地である田原坂資料館をご視察になり、その時のご説明役が縁で、郷土史家で作家の勇知之(いさみ ともゆき)氏は、11年後の2010年(平成22年)1月17日、熊本市現代美術館にて、「日赤誕生の秘話」と題し西南戦争と日本赤十字社の誕生について講演を行った。これは、日本赤十字社熊本県支部が創立120周年を迎え様々な企画イベントを行う中、一番メイン行事である「知られざる日赤の歴史展」の一環として熊本市が講演を依頼したものだった。この「日赤の歴史展」は、日本を代表する画家から無償で日赤本社に寄贈された洋画などを展示する催しで、熊本市と共催で行われ、東郷青児、東山魁夷、小磯良平など、赤十字の活動に賛同された多くの著名な作家が名を連ね、同時に本社所蔵の歴史的な史料や広報資材を紹介し、日本赤十字社の発祥の地を顕彰すると共に、赤十字活動を少しでも理解していただこうというものであった。同時開催された「赤十字こども絵画・ポスター展」にも大勢の人々が訪れた。

勇知之氏は西南戦争の著名な研究家であり、郷土史家や作家としてもご活躍されているが、講演の打合せをしているとき、「西南戦争・病院等配置図」を作らないかとの提案があり、勇知之氏からの資料提供により「西南戦争・病院等配置図」が完成した。これをパネルやポスターにし、日赤熊本県支部の展示会場だけでなく、熊本城、ジェーンズ邸、田原坂資料館などに展示できたことは、日赤熊本県支部としてこれまでにない歴史の検証となり広報活動にも役立った。そんなある日、勇知之氏は地方新聞である「熊本日日新聞」に、「日赤の前身である博愛社設立前に、官軍は薩軍兵士を救護していた。」と発表された。これに対して地元知識人から「博愛社の設立に当たり、救護の具体的事実が先行したことはあり得る」とのコメントも掲載された。それまで敵兵の治療は行われていなかったというのが一般的となっていたが、西郷従道の証言をもとに史実として発表したものだった。後に、勇知之氏は、「激しい戦闘の熊本県北に残っていた薩軍傷者(非戦闘地域)の救援活動が、軍、行政にかわって博愛社が代行するという役割分担で実行されていたと考えられる。」と、述べられている。歴史家ならではの素晴らしい考察であった。

この連載の中でも気になることとして、「小松宮彰仁親王殿下、遠く九州に赴きて官賊の別なく傷者を救援せんことを願い、有栖川総督殿下の許可を得て、遂に業を創めたり。これを博愛社と名く。此時此社の殊に功績を著せしは、賊の傷者又は捕虜の病者を救療せしこと是なり…、民家を借り賊兵の傷者を勅療する所を示す、当時、赤の丸一を博愛社の徴章とせり…」と、石黒忠悳が作成した幻灯機の説明文を紹介し、佐野常民が起こしたはずの博愛社の救済事業について、なぜ小松宮殿下が創設したように書いてあるのかと、疑問を投げかけている。これに勇先生の考察を併せれば、小松宮彰仁親王殿下率いる官軍が民家(玉東町、旧高瀬町など)を借り、既に、敵である薩軍兵士の治療を行っており、それを引き継ぐ形で、佐野常民らが有栖川総督殿下の許可を得て、「博愛社」を設立させ、官民一体となって薩軍兵士の治療を継続したとになる。非常に的を得ている。

熊本が、皇室も認める日本赤十字社の発祥の地であることは、熊本県民にとって大きな誇りであり、同時に、日本の赤十字が熊本でどのように誕生したのかを、全国に向けてしっかりと語り継いでいく責任もある。日赤熊本県支部は、史料や言い伝えが、ともすれば置き去りになりがちな中、2010年12月に、縁あって勇知之氏の寄稿により「西南戦争と博愛社創設秘話―日本赤十字社発祥物語―」を発刊することができた。これは大変記念すべきことであった。この本は、西南戦争の激戦死闘の中で大量の死傷者の救護に苦心した経験を持つ地元熊本だからこそ語り継ぐことのできる日本赤十字社誕生の物語だ。もちろん、この連載もまだまだ未完成であったが掲載された。この本の出版により、西南戦争と当時の医療救護活動が博愛社の誕生とクロスし、「日赤発祥の地」を詳細に語るきっかけとなった。今後も、日本赤十字社の創業の歴史をしっかりと検証することで、赤十字精神の基となる「思いやりの心」を後世に継承し、赤十字の理想とする人道的任務を果たしていきたいと願うばかりである。(書籍の問合せ及び注文先:電話096-384-2100 日赤熊本県支部事務局)

(支部 梶山哲男)

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