日赤発祥の地・熊本 〜連載企画〜

連載41 「5月1日」は日本赤十字社の創立記念日

博愛社設立が許可された日は、昔から明治10年5月1日と説明されてきた。そして、日本赤十字社の創立日記念日も5月1日と定められている。しかし、征討総督有栖川宮熾仁親王殿下が、博愛社設立請願書に「願之趣聞届候事、但委細ノ儀ハ軍団軍医部長ヘ可打合ノ事」と記載したのが5月3日であることから、最近では日赤が誕生したのは5月3日と説明されることもある。それで、一般の方からは、日赤が誕生した日は明治10年5月1日、それとも5月3日かと、日赤としての統一見解を求められることがある。

それでは、博愛社創設時の記録はどうなっているのだろうか。 博愛社報告第一号には、「博愛社結社ノ願書ヲ齎(もたら)シ五月一日熊本ニ到テ之ヲ征討総督本営ニ申請シ直ニ准允(じゅんいん)ノ命ヲ得たり」とある。また、「五月一日熊本ニ到着シ本務ノ餘直ニ征討総督本営ニ至テ齎ラスト所ノ願書及社則五條ヲ具シテ申請シ則五月三日允許ヲ得タリ」ともある。更に、明治13年1月発行の博愛社第四報告には、「本社の創建に方りて、常民熊本に於て其可否を山県参軍に資す、参軍深く之を賛し即ち書を征討総督有栖川親王に上り、創建の許可を請ふ。」とある。日本赤十字社社史稿には「各地ノ賊軍ヲ追撃セントスル五月一日ナリ佐野議官ハ即時願書ヲ懐(ふところ)ニシテ本営ニ抵リ参軍山縣有朋及高級参謀小澤武雄ニ就(つけ)テ結社ノ目的ヲ陳シ其可否ヲ質ス 参軍等深ク之ヲ賛ス 則チ齎(もたら)ス所ノ願書ヲ有栖川總督宮殿下ニ上リ博愛社創立ノ許可ヲ請ヒシニ 殿下大ニ嘉納シ給ヒ即日允許ノ台命ヲ下サレタリ」とある。

これを何度読んでも、本当に許可された日は確認できない。それでは、いったいどっちが本当の創立日なのだろうか。答えは、やっぱり、明治10年5月1日と明確にしておきたい。理由は、昔から、明治10年5月1日と説明されてきたからである。日赤職員の誰もが博愛社設立請願書に5月3日と記載されていることは承知のうえで、昔から5月1日と説明してきた。今さら5月3日と説明し直す必要はないように思う。設立当時から素直に5月1日とされてきたのだ。世代が代わっても、同じ議論を度々繰り返し、同じ答えを出してきたはずである。 そこで参考のために、日本赤十字社の創設日に関する本社の見解を示す証拠のようなものを披露する。

これは、明治36(?)年8月9日付けで、日本赤十字社総務部 部長 後藤多喜蔵から日本赤十字社熊本支部主事橋本留喜に宛てられた手紙の文面である。この書状は、熊本からの質疑に対する本社からの回答で、佐野常民が逝去された明治35年(1902年)12月7日の翌年のものと思われる。

拝啓

益々御情勝奉慶賀候 偖(さて)博愛社創設日に関する貴書拝見 早速御返事可差上○の処 佐野伯爵に御面會の機を失し暫く○○日御面會致候次第にて その為め遂○延引致候次第不悪御承知被下度候
偖(さて)創設日を五月三日なりとするの貴説は如何よりも御尤(もっとも)の如く拝読致され 而(しか)も小生は本社の古き事に通じ居(お)らず候間 不思議に思ひ本社の先輩諸氏にも尋ね 又 赤十字読本の編輯(へんしゅう)人たる手塚少年赤十字課長にも貴書を示し回答を望みたる次第に有て候
然(しか)るに實(じつ)は同様の問題は従来度々報たる事有て候由なるも 本社に於ては常に矢張り五月一日と決定致し来り居候ものに有て候
貴説の書類日附は三日とあるも それは書類の形式にして 實際(じっさい)佐野伯爵(先代)が殿下に拝謁を願はれ直ちに御允許の御言葉を賜はりたるは五月一日なりとの事實(じじつ)を基礎とするものにして 本社においては事實其の事に当られたる初代社長佐野伯爵以来 常にその事實を事實として創設日を定め来り居候ものに有之候 例ば 「本社創立二十五年記念祝典の儀に付具申書」と題する明治三十年八月十四日附佐野社長名大隈外務大臣宛の公文に於ても 当時御生存中 現職社長として佐野伯爵が五月一日を根拠とせられたる事明かにして 尚 日本赤十字社創立二十五周年記念祝典報告中「創立記念日ノ設定」と題する文中にも 明らかに「五月一日社則を具シテ在熊本征討総督本営に禀請シ允許ヲ得テ云々」等有之候
要するに形式と實際の差にて 本社に於いては 初代社長自らが實質によりて創設日を定められしものと考られ候
右の次第にて手塚氏も赤十字読本は訂正せずと話され居候間 左様御承知被下度 先に右御返事○申し上度候
敬具
尚 御参考の為 日本赤十字社創立二十五年○祝典報告一部同封致置候

八月九日 總務部にて 後藤多喜蔵
熊本支部 主事 橋本留喜 殿

日赤本社は、佐野常民が熊本征討総督本営にて殿下に拝謁し、直ちに御允許の御言葉を賜ったのは5月1日であり、5月3日は書類上の形式的ものであるとしている。つまり、実際と形式の違いとして、5月1日を創立日と結論付けている。そして、佐野社長は事実をもとに自ら創設記念日を5月1日と定めたとある。創業者本人がそう言っているのだから間違いないのである。

国際赤十字においても、アンリー・デュナンを含むスイス人による5人委員会が誕生した1863年を、赤十字が設立した年としているが、実際にヨーロッパ12ヵ国により初のジュネーブ条約の調印式が行われたのは、その翌年の1864年であった。書類上はどうであれ、佐野常民が直訴のために熊本征討総督本営を訪れ、山縣有朋参軍と小澤武雄高級参謀がこれに賛同し、有栖川總督宮殿下に拝謁し内諾が得られたその日が、日本赤十字社の創立記念日となったのである。佐野常民にとって明治10年5月1日は、目の前の戦傷病者を救うことは勿論、文明開化の証と自負する道徳的行動とその組織が公に認められ、「敵人の傷者ト雖モ救ヒ得ヘキ者ハコレヲ収ムヘシ」と、世間に誓を立てることができた記念すべき日であったに違いない。

(支部 梶山哲男)

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