日赤発祥の地・熊本 〜連載企画〜

連載32 日本赤十字社の前身「博愛社」

日本赤十字社の標章である赤十字マークについて興味のある話が日赤同窓会40周年の記念寄稿として本社が掲載している。

株式会社防衛ホーム新聞社刊行本表紙「明治4年8月に松本順(長崎でオランダ医師ポンペから医学の知識と技術を学ぶ。良順から順に改名、初代陸運軍医総監)が軍医頭に任命され、軍医制度制定に向けて準備中に、軍医寮旗の選定を命じられた。その時、松本は『赤十字』を書いて提出したところ、元老院議官たちの問題となった。というのも『日本陸軍軍部の標旗として耶蘇(やそ=キリスト教のこと)の印を選定する松本順は日本陸軍を愚弄している者で実にけしからん男だ。こんな耶蘇の印を帝国陸軍とあろうものが使用出来るか出来ないか、突き戻して考えさせろ』というすさまじい勢いで返してきた。松本は『日本の首脳部というものの集まりは、こんなものかなあ。議論する値打ちのないものに弁解は無用』といって、縦の棒を一本取って『赤一字』として出したところ、『いやこれなら文句どころか、日本一いう一の字になる。一は物の始めでもあり、物の頭でもある。万事こうでなくてはいかん』と、至極単純に決定したことが、鈴木要吾著『蘭学全盛時代の蘭疇(らんじゅ)(=松本順のこと)の生涯』(東京医事新誌局発行)に明記されている。・・・・・」(2009年「日赤同窓の会だより」第80号)

 

株式会社防衛ホーム新聞社刊行本裏表紙また、ちょうど同じ明治4年、陸軍大輔山県有朋も、太政官正院に「世界普通ノ赤十字相用申度」という伺書を出した事がある。この時、太政官左院(諮問機関)ではそれに対して、デュナンや赤十字の謂われを記し、赤十字は「同盟ノ記号」であり、ジュネーヴ条約未加入国が妄りに使用すると不都合が生じる恐れがあるとの意見書を出して却下している。

松本順は、西南戦争の最中、明治10年5月下旬に石黒忠悳と熊本軍団病院を訪れている。佐野常民から博愛社の説明を受け、自分達が発案した日本陸軍軍医部の表示「赤一字」の上に日の丸を付け加えた博愛社の表示「赤の丸一」の相談を受けたのであろうか。もしそうであるなら、6年前自分たちが付けようとした赤十字マークを思い起こしたことだろう。石黒忠悳は、自分が考案した「赤一文字の医療背囊」は、厳しい軍部予算の中で、製作当初からジュネーブ条約締結後は、縦の棒を加えるだけで、赤十字マークとすることを想定していた。

 

赤の丸一

佐野常民も博愛社はゆくゆくはジュネーブ条約に加盟し、日本赤十字社として活動し、その時はどうどうと赤十字マークが使用出来るような日本になっていることを願っていたはずだ。当時のジュネーブ条約では、自国の国旗と赤十字旗を並べて掲げ、戦時救護をしなければならなかった。松本順らが付けようとした赤十字マークに反対したのは、おそらく太政大臣三条実美であり、右大臣岩倉具視の上司でもある。無宗教であるはずの赤十字が、宗教的なものとして取り扱われたことは非常に残念なことであった。かつて赤十字マークを使おうとした松本順、石黒忠悳、山県有朋が、熊本の同じ場所に集い、佐野常民と赤十字活動について語ったかと思うと、日赤発祥の地としての価値がますます上がるというものである。そして3人は、西南戦争の最中、赤十字マークの意味の理解を求めるには、まだ時期尚早であることを知っていた。日本赤十字社の前身としての「博愛社」という社名に共感し、今後の活躍にも期待したことだろう。

 

標章明治10年10月31日をもって西南戦争における博愛社の救護活動が終わったが、佐野常民、大給恒等は戦時救護の経験を生かし、今後の戦時における救護活動の万全を期するため、平時よりその準備の必要性を痛感した。社員の中には救護準備の不必要を唱える人も多い中、博愛社の存続を熱心に訴えたのは小松宮彰仁親王殿下だったと伝えられている。佐野常民等は西南戦争における救護活動の体験を通して、博愛社を永続させるための諸準備を進め、「博愛社社則付則言」を制定し、小松宮彰仁親王殿下(当時、東伏見宮嘉彰親王殿下)を総長に推戴し、明治11年6月に選挙によって佐野常民、大給恒の両委員は副総長に就任した。

(支部 梶山哲男)

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