日赤発祥の地・熊本 〜連載企画〜

連載26 博愛社設立を許可した 「征討総督 有栖川宮熾仁親王殿下」

有栖川宮熾仁親王殿下有栖川宮熾仁親王殿下は、明治10年5月1日、熊本城内の熊本洋学校教師館において、元老院議官佐野常民から博愛社設立の建議を受け、官軍のみならず薩摩軍をも区別なく救護するその精神に心から感動し、中央に諮ることなくこれに内諾を与えた。佐野常民は、5月2日にブドウ酒を征討総督本営に差し入れ、5月3日には、元老院議官大給恒(おぎゅう ゆずる)との連名で記載した博愛社の設立請願書と社則を、征討総督ニ品親王有栖川熾仁殿あてに直接提出した。有栖川熾仁親王殿下は、直筆で請願書に「願之趣聞届候事、但委細ノ儀ハ軍団軍医部長ヘ可打合ノ事 五月三日」と記し、正式にこれを許可し、その日の午後には、太政大臣三条実美に博愛社設立を現地で許可したことを知らせた。常民は、日本赤十字社の前身である博愛社をついに誕生させたのである。常民はこの内諾を得た5月1日を後に日本赤十字社の創立記念日と定めた。

有栖川宮熾仁親王殿下が、博愛社設立を許可したことを直ちに太政大臣三条実美に知らせたのには、理由があるように思える。三条実美は、大のキリスト教嫌いで有名である。三条実美が赤十字の印を耶蘇の印と同じに考え、赤十字社の設立やジュネーブ条約への加盟に反対していたのではないだろうか。赤十字のマークは赤十字の提唱者アンリ・デュナンに敬意を払い、彼の母国であるスイスの国旗の色を赤白反転させたとものと言われている。宗教や国籍等に中立である赤十字であるが、確かに十字であるのには違いない。十字軍をも思わせる。イスラム教の国は赤十字社ではなく赤新月社と言い、赤い三日月(新月)のマークを使っている。アンリ・デュナンの映画で見たことがあるが、ソルフェリーノの戦いで、フランス軍とオーストリア軍が向かい合って銃撃戦を展開している最中、両軍の負傷者をアンリ・デュナンが脱出させる場面で、とっさに作った赤十字旗をひるがえして行進した。両軍ともキリスト教徒だったため、負傷者が戦火を通り過ぎる間、十字に銃を向けることができず銃撃戦は一時休止となり、デュナンは決死の脱出に成功した。これは、赤十字が保護のマークとして使用されている所以でもあるが、三条実美が赤十字を知ってキリスト教を連想したとしても不思議ではない。

博愛社設立請願書博愛社社則

著者が思うに、西南戦争が勃発するまで、廃藩置県、征韓論、廃刀令と、武士が職や魂を奪われ、それに反発する士族の抵抗は各地で発生し、明治7年の佐賀の乱を筆頭に、多くの士族たちが非人道的に命を落としていった。そして、明治政府はそれを鎮圧するのに躍起となる半面、全国に広がることを避け、悲惨な事実をあまり公表していなかったのではないか。西南の役(=西南戦争)も例外ではない。佐野常民がパリにいる時に戊辰戦争が起き、ウイーンにいる時に佐賀の乱が起きた。 医の心を知っていた佐野常民がヨーロッパで赤十字と出合う度に、多くの同志を失ったのだ。国難の時に何もできない自分が悔しかったにちがいない。いくら明治政府が文明開化を急いでも、道徳的行動が伴わなければ意味がないと、本気で日本の将来を案じていたのではないか。また、日本は欧米の文明には劣っているが、礼節や博愛を重んじる精神では欧米より勝っていると考えていたのではないか。常民は明治8年に元老院議官に就任したが、西南戦争の勃発前にも日本赤十字社の設立を具体的に画策していたのかもしれない。明治政府が、欧米諸国との間に結ばれた不平等条約の解消を出来ないでいるなか、ジュネーブ条約を締結し、国際社会の仲間入りをしようと画策していたのかもしれない。そして、それは欧米列強と肩を並べて対等に向き合うことを意味している。その前段である博愛社設立について、岩倉具視と同様に、三条実美を説得しきれないでいたのではないか。元老院の議長でもあった有栖川宮熾仁親王殿下もそのことを十分承知しており、多くの日本人同士が戦い死んでいくなか、博愛社設立を現地で許可したことを真っ先に太政大臣三条実美に告げ、キリスト教の宣教と勘違いしている勢力を抑える必要があったのではないか。ちなみに、明治維新の十傑の1人である熊本藩士の横井小楠は、明治新政府に参与として出仕するが、明治2年に奈良県の十津川郷士らにより暗殺された。その理由は、横井小楠が開国を進め日本をキリスト教化しようとしているという誤解によるものだった。

(支部 梶山哲男)

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