日赤発祥の地・熊本 〜連載企画〜

連載16 日本赤十字社創立の由来(副社長 子爵大給恒氏の談)―明治35年10月26日~28日読売新聞―

大給恒
赤十字社の事蹟(じせき)に就いて既に人の見もし聞きもした事は今更言うの必要は無いから、私は一つ世間に知られぬ事柄丈をお話する。さて10年の戦争が始まった時には、隈(かしこ)かれども天皇皇后両陛下に於かせられては至極宸襟(しんきん)を悩ませ給ひ、皇后陛下には御仁慈の大御心を以って御手から負傷者手当用の綿撒糸を御調製遊ばされたといふ有り難い思召しの次第が遠く草もうの間にまで聞こえて来た。其頃故岩倉公は華族一統の事を支配されて、華族の取締係とでもいふような地位に居られたが、その岩倉公からして一日華族一統に向って沙汰されるるには、此の度西南の戦乱に就いてはお上に於かせられても叡慮(えいりょ)を悩ませ給い、皇后陛下には綿撒糸までを拵(こしら)へ遊ばさるる有り難い思召のある折柄、皇室の藩屏たる華族に於いて拱手傍観(きょうしゅぼうかん)するは忍びざる所であるから、応分の働きをして国家に対する義務を尽くすべしとの事であった。……略……

私は予ねて歐羅巴(おうらっぱ)には赤十字社といふものがあって傷病者を憐れむといふ事を聞いて居た故、私は一日岩倉公を尋ね、今度の御沙汰に就いて華族一統旨を奉じて包帯や綿撒糸を作って居りますが、是丈では飽き足らぬ心地が致しますから、西洋には予ねてよりあると聞く一大私立病院を立てて、傷病者を救う事に致しては如何でございませうか、今の華族は兎角尸位素餐(とかくしいそさん)と呼ばれて、金ばかり持って居て何もせぬといふ評判が頻りであるから、此際こういふ病院でも立し、之を華族の事業とでもしたら、一つには華族の勤め場所も出来て世間の毀(そし)りも消えませうと申し入れた。岩倉公はこれを聞いて、至極好いお考へと思ふが、何れ勘ごして見やうといふ事で別れた。

それから十日ばかり経つと公からお迎えを受けたので行ってみると、貴公の先日のお考へに就いて佐野(常民)からも話しがあったが貴公は一つ佐野と話し合ってはドーぢや、こういふ事であった、私は元々岩倉公を戴いて華族一同に賛成させる積りであったが、今此話しを聞いてまたいろいろ考えながら帰って来た。

其頃私は元老院議官をして居たが、此時丁度賞勲局を創立されるといふので、私は其副総裁を命ぜられ、創立の公務に追われて居たので、自然私用は跡廻しとなって佐野にも逢わずに居た中、或日佐野から訪問を受けて、話しが傷病者救護の事に及んだが、話しは直に纏(まと)まって、佐野の考案で博愛社という社を作り有志者から寄付金を募る事にした、併し兎に角仕事をするにも勝手には出来ぬから願ひを出そうといふ云うので、願書を認(した)めて西郷陸軍卿(従道・じゅうだう)に差出した。

ところが西郷の言うには、お考へは至極結構でごわんすが、賊と名の附くもの一兵卒といへども許しませんぞとの事であった。私はこの言葉を聞いて心の中に、ア、失策だと思った。其願書の趣意は官賊共に傷病者を救ふといふもので、既に戦闘力を失ったものは賊といへども、陛下の赤子(せきし)であるから、再び刃向はぬといふ事なら之を救ってやるが当然と思ったからであったが、今西郷の言葉を聞いて、始めて只報国恤兵(じゅっぺい)といふ名義丈にして置けばよかったと思ひ又岩倉公が肌を抜いで肩を入れて下さらなかった原因も解って大いに後悔した。

それといふも西南戦争は始めの中は西郷の勢力が中々強く、官軍も随分悩まされて、何れが賊となるか官軍となるか当分は分からぬといふ有様で、人々は皆首をひねるばかりの勢ひであったから、此願書はチトお気に入らなかったものと見える。

西郷さんの第一の言葉は右の如く厳格であったが、第二に至って征討の事は皆有栖川総督の宮殿下にお任せになって居る故殿下へお願ひになったら良かろうといふ柔(やさ)しい言葉が出て来た。

其処で佐野が丁度御用で九州へ出張する事になって居たから、佐野が福岡に出向いて総督の宮殿下へお願ひしたが直ぐに御許可になったといふ電報が来て、佐野は引続き九州で肥前地方の人を説いて三四百円の金を拵(こしら)へ、此方は東京に居て其間に博愛社創立の準備に掛つた。ここに特筆大書して貰いたいのは創立賛成者中の一人で櫻井忠興といふ人の事だ。……(以下博愛社設立時の最大の協力者であった元攝州尼ヶ城主櫻井忠興について語っている)

(支部 梶山哲男)

 

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